胸があたたかくなるとこへ

essay


最近のことを少し。


今年リリースされた曲の中に、聴きはじめはピントがズレていたようなものが、何かのきっかけで幾度か聴いているうちに、不思議と合う瞬間がきた。聴きながらその方の道のり、過去から今へと時を積み重ねて歩む美しさを感じました。

華やかさを経験しながら、時代の移り変わりと、消費の早いサイクルの中で、過去の輝きや栄光を超えた先にある、今の日々をめぐる変化に潰れずにその姿、その声で届けられる歌が素敵で、胸があたたかくなりました。

ちょっとした音楽での、最近の嬉しい出来事。

また次回、絵本で出会った音楽のこと、打楽器奏者エヴェリン・グレニーさん、メモとして書こうかな。

絵本📙心をひらいて、音をかんじて 耳のきこえない打楽器奏者 エヴェリン・グレニーより

心をかたむけてみみをすませ、決してあきらめないタイに。あなたのことを見て、聞いて、愛しています。すべての子どもたちのために、ガラスの天井をうちくだいたエヴェリンに。シャノン・ストッカー

リー・デジェイスーに デヴォン・ホルズワース


文/シャノン・ストッカー

医師を志し学んでいたとき、反射性交感神経性ジストロフィーを発症した。二児を出産後、作家デビュー。

ミュージシャンの一面ももつ。エヴェリン・グレニーの生き方に感銘を受け、交流をもち、本書を執筆した。アメリカ、ケンタッキー州在住。

絵/デヴォン・ホルズワース

アメリカ、ワシントンD.C.に生まれ、中央アメリカのパナマ共和国に育った。アメリカのロードアイランド・スクール・オブ・テザインを卒業後、絵本作家、イラストレーターとして活躍。家族とドイツ在住。

訳/中野玲奈

津田塾大学大学院イギリス文学先行修士課程修了。ミュンヘン国際児童図書館の日本部門を担当。

〈翻訳によせて〉

エヴェリンは、私には聞こえない音を豊かに感じています。私に感じ取れるものがすべてではなく、わたしの感覚をこえた世界がたしかに存在するのです。たとえ心がかなしみでいっぱいで、無音のように感じるときでも、私には聞こえない音がいつもまわりで鳴っているのでしょう。そんなふうに思ったら、救われたような気がして、この本をぜひ紹介したいと思いました。


見開きの表紙裏すぐには

「わたしたちは、ちがうやり方で、音やリズムをかんじることができるのです」

エヴェリン・グレニー


エヴェリンはイギリス北部、スコットランドの音楽を聴きながら丘の上の農場で育ちました。

クリスマス・イブには、お父さんのアコーディオンを音色に胸を躍らせ、日曜日には、お母さんといっしょに、オルガンをひきました。

初めて楽器に触れたときから、音楽はエヴェリンの心をつかみました。

8歳のときには、きいた曲をピアノでひくことができました。

10歳のときには、クラリネットをなめらかにふくことができました。

しかし、エヴェリンはしだいに、耳に痛みを感じるようになりました。

ここから耳の神経に問題が見つかり、医者からは補聴器や、ろう学校へのすすめが。

本人は自分が行きたい学校に通いたい。

音楽だってあきらめたくない。補聴器をつけて、みんなの唇の動きを読めば話せるんじゃないかと。

両親も、医者の言葉には首をふり

「耳がきこえなくなっても、この子がやりたいことをさせます」

小学校を卒業し、ろう学校ではなく地元の公立中学校へいきます。

電話もザアザアという雑音にきこえるだけ。

ところが打楽器の音がエヴェリンの耳をとらえました。

ドラムの上でスティックがはね…マリンバやティンパニの上で、マレットがおどります。

エヴェリンは、私がやりたいのはこれだ!

中学校での音をききとるテストは、いい点はとれませんでした。

打楽器専門の先生のところでのテストでは、楽譜が読めるか、リズムがとれるか。

長いことピアノを習っていたエヴェリンは、合格しました。

先生はスティックと、スタンドは渡さずスネアドラムだけを持って帰らせました。

さわったり、たたいたり、つめでひっかいたり…ひっくりかえしたり…

アクセサリーをのせてもみました。

そのたびに、ドラムはちかったふうにふるえました。

その後もさまざまな音のだしかた、震え方を感じながら、補聴器を外してみて、壁に手のひらをおしつけました。

大きな振動が、エヴェリンのおなかや背中や足に伝わり、体じゅうをふるわせます。

くつもぬぎました。胸がどきどきします。

感覚がとぎすまされて、全身が耳になったようです。

体のどこがふるえたかをたよりに、楽器のチューニングもできるようになりました。

イギリスの音楽院にはいり、打楽器の協奏曲のソロを演奏。

会場の人たちはエヴェリンといっしょに、音楽のうねりに身をゆだねました。

やがてイギリスだけでなく、ヨーロッパのほかの国にも、エヴェリンの演奏はひろまっていきました。

「二台のピアノと打楽器のためのソナタ」はグラミー賞に。エリザベス女王から勲章をさずかりました。

エヴェリンの耳がきこえなくなるとわかったとき、音楽をつづけるのは無理だと、お医者さんは言いました。

でも、そうではありませんでした。

エヴェリンはこんなふうにいっています。

「耳がきこえなくなってから、わたしはもっといろいろな音をゆたかにかんじることができるようになったのです」

ソロで演奏するプロの打楽器奏者になったのは、世界でもエヴェリンがはじめててです。

周りの人から

「あなたには無理だ」といわれつづけましたが、自分にはできる。信じていました。

だれにもたくさんの可能性があり、どんなときでも、どこかに道は見つかります。

あなたの心の声をかんじることができたなら、きっと・・

絵本のかいつまんだ内容はこのような感じです。


そして、作者の方はミュージシャン。反射性交感神経性ジストロフィーという病気をわずらい、体温の調節ができなかったり、激しい痛みを感じたりすることがあり、雨にあたっただけで、ナイフに刺されたように痛むことも。右手だけ冷たい。や、汗をかけない、潰瘍ができる、など。さまざまな症状を抱え、車いすで2年を過ごし、エヴェリン同様、「あなたには無理だ」となんどもいわれたと。自分にはできると、その思いがエヴェリンと重なるところがあり、彼女の生き方にひきつけられたようです。

エヴェリンは、重度の難聴ですが、補聴器は、使っていません。演奏するときは床のふるえを感じられるよう、はだしになります。耳の聞こえる人とはちがうやり方で、エヴェリンは音を感じています。そして、心をひらけば、誰もがもっとゆたかに音を感じられるのだと、いろいろな場でつたえているそうです。

エヴェリンから読者へ、少しだけかいつまんで。

あなたが私の物語から力を得て、自分の道をひらく勇気を持てますように。どこでなにをしているときも、あなたの心の声を聞くことを、どうか忘れないでくださいね。

エヴェリン・グレニー


この絵本は10月末、4年生の教室で読んできました。記録がてら、ここに。

👋

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